バイナル・カスライン
河出書房新社から出版されている現代アラブ小説全集。そこからマフフーズ作の『バイナル・カスライン』を読む。マフフーズ1911年、エジプト生まれの作家で、1988年にノーベル賞を受賞したという。アラブ人にとっての民族的作家ということだ。非常に多作な作家ということだが、ここで紹介されていた小説は、第1次世界大戦前後のエジプト・カイロが舞台の小説だ。
カイロの富裕な商人、アフマド・アブドル=ガワードを中心とした彼の一家が紹介されている。まず、主人公の彼は、家父長的な一家の独裁者だ。誰も彼には逆らえない。厳格で恐れられている彼が、実は家の外では、酒を飲み、音楽と女を愛しという放蕩な生活を送っている。でも、おそらく彼は、自分がそういう放蕩な生活を送っているという思いはないだろう。何でも自分の意のままになり、妻や子供は自分の意思に服さねばならないと思っているから。
彼は、奥さんのアミーナが外出することを許さない。それは、当然、女は男の意思に服し、外に出ないということで女は庇護されていると思っているからだ。その妻が、夫の許可なしに、寺院に参詣するというところから、事件が起こったりする。
彼には子供が5人いる。男子3人と女子2人だ。この長い小説の中で、子どもたちもいろいろ苦労もし、成長もし、結婚したり離婚したりする。そのようないきさつが大河小説のように語られ、読み物としては大変面白く、先を読みたいという気をとてもそそられた。
時代背景としては、エジプトがイギリスから独立する波乱の時代状況があり、エジプト人の熱狂的な愛国運動が盛り上がる。その中で、個人も一家も翻弄される。大部の長編小説である『バイナル・カスライン』そのものが、3部作の一つなのだという。作者の筆力に驚きながらも、カイロ市街の猥雑な雰囲気を感じることのできるこの3部作、全部読んでみたい気もする。
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