UA-92533382-1 『オリエントからの小鳥』(ハキーム著)・河出書房新社: よつば農場便り

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2021年2月 8日 (月)

『オリエントからの小鳥』(ハキーム著)・河出書房新社

現代アラブ小説全集からエジプト人作家ハキームの『オリエントからの小鳥』を読む。

この小説は、作者の実体験であるパリへの留学が色濃く反映されている。時代は、第1次世界大戦と第二次世界大戦の間にあたる時期だが、やがて欧州の平和が乱される、その暗雲が立ち込めようとする1940年代に近づいていく頃だ。

オリエントからの小鳥、というのは作者の投影である小説の主人公モホセンが、パリの友人から呼ばれているあだ名だ。小鳥というかわいらしい愛称とは裏腹に、主人公のモホセンは、鈍重でしばしば思考にふける。しかし、そんなモホセンのパリでの実を結ばなかったつかの間の恋愛が描かれていたりする。

小説の主題は、やはり、ヨーロッパに対峙するオリエント、すなわち東洋の苦悩だ。しかし、1930年代の時代背景であると、ヨーロッパ人の間でも「西欧の没落」の予感は感じられていた。象徴的なのは、亡命ロシア人のイワンだ。彼はキリスト教にもマルキシズムにも絶望して、オリエントに回帰することを唯一の望みとして語る。しかし、モホセンは、ヨーロッパという娘に気前よく財産を渡してやったオリエントは、既に汚染されていて清らかなところは何も残ってないのだと告げる。これでイワンの絶望は極まる。

清澄なオリエントはもうない。それはヨーロッパのせいでもあるし、オリエント自身のせいでもある。アラブ人作家の苦悩は、私たち日本人の苦悩でもあると感じた。無反省に「東洋」を失っていく日本にこれでいいのかと再考を促す。

 

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