『老子―もう一つの道』 四十七 万事を見通す
【自由訳】
家から一歩も出ないでも世の中のことすべてを知る。外に開かれた窓から外部を見なくても、天体の運行を正確に知る。己から出て遠くへ行けばいくほど、智慧は少なくなる。だから、私の理想とする大人(たいじん)は、行動せずとも知っているし、観察せずとも明察であるし、作為せずとも成し遂げることができる。
【解説】
観察し、実証することを重んじる近代の科学的精神とは全く逆にいくやり方。近代科学を生み出せなかった東洋への批判は、こうした老子への態度にも向けられるべきなのだろうか。老子とて、万象の生起消滅の過程を知り、神のごとき智を持ちたいという要求がある。物事の根本の理を押さえれば、物事の成り行きをすべて言い当てることができるというのは、一種、科学的思考とも言えなくはないが、西欧で近代科学が発展し、東洋では「易」という疑似科学になったのはどうしてだろうか。
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