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2017年6月15日 (木)

大衆を支配することば

 

高田博行氏はヒトラーの演説を研究している方で中公新書から「ヒトラー演説」という著作も出している。氏が大学のセミナーで講演した原稿を読む機会があり、氏の研究を大変興味深く読んだ。そもそも文系学問は「いったいそんなことして金になるのか?」ということで、近年は国家の教育予算面でも教育行政面でも冷遇され始めている。しかし、わたしは科学技術最盛の世の中でも哲学やら歴史学、文学など役に立たなさそうなものこそ大事だと思っている。大国家が、もう後押ししてくれないのなら、生涯学習の時代でもある。普通の人が、老いも若きも大いに文系学問を学び隆盛させようではないかということで、高田氏の興味深い研究を紹介する。

高田氏は歴史を学ぶ意義をこう説明する。人間は何か概念をとらえる言葉があれば物事を理解できる。だから歴史から学んだ概念を現在の事物に当てはめると、社会のありさまを分析的に理解できるので、「レッテル貼り」の効用を説く。たとえば誰もがその事績を知っているヒトラーというレッテルを貼ることで、それだけ十分に「気をつけるべきだ」ということを人の心に呼び覚ますことができるというのだ。

安倍首相は「レッテル張り」という言葉が嫌いで、自分に「レッテルを貼るな」と主張するが、私は「ヒトラー」というレッテルを進呈しようと思う。しかし、私の意図はネット上の言説によくみられるように単なる罵詈雑言をしようというのではなく、安倍さんや彼を支える思想団体や自民党の素晴らしい能力や力量に敬意を払ってのことだ。私のような、少数意見の反対派は今後ますます地位や存在がおびやかされることになるだろう。それだけ安倍さんたちのグループは優れた手腕で世論を勝ち取り、政治・経済界を支配しているのだ。なぜ、彼らにそれが可能かと言えば、彼らが相当優れた戦略や頭脳でそれをなし遂げているからだ。そこに敬意を払い、彼らと少しでも対抗するのであれば彼らがとっている素晴らしい戦略を私たちも知らなければお話にならないと思うからだ。

自民党の政治家の方で「ヒトラー」に学べと言った方がいたが、高田氏によればヒトラーも相当勉強して研究している。ヒトラーが勝利をおさめたのも努力や研究のおかげだ。私たちは高田氏のような奇特な研究家の成果を利用して、ヒトラーが再臨しないようにしなければならない。

さて高田氏の研究の成果を引用する。

 

・大衆ひとりひとりは孤独だが、大衆集会に出かけ、自分の仲間がいると安心できて、大衆暗示と呼ばれる魔術的な影響の中に入ってくるということを、ヒトラーは知っていた。

・理性ではなく感情に訴え、複雑ではなく単純に言うこと。

・為政者に必要な技術は、いかに言葉を巧みに駆使できるか、そして言葉によって群衆に幻想を与えることができるか。

・簡潔に言い切って、同じ言葉を何度も繰り返す。繰り返されると、人はある種の威厳のようなものを感じて、麻痺して批判能力がなくなり、最後にはそれが伝染していく。(まさに、安倍首相が大衆の支持を受けている秘密がここにある。NHKを始め安倍さんのシンプルで力強い言葉が何度も放送され、それを聞き入ると、大衆は安倍さんの魅力に抗しえなくなり賛美するようになっている)

 

・イメージが大事。「自由」「平和」という実態があいまいな言葉を使う。それによってある種の神秘性が出てくる。(安倍さんこそが「平和」を守ってくれるという幻想が刷り込まれてしまっているし、これでテロはなくなるという幻想を大衆は刷り込まされている)

・選挙活動においても明確な言葉は避け、何にでも適用できるようなフレーズ、スローガンを用いる。(そういえばいつの間にか自民党の国政は「ワン・フレーズ」政治になっていたが、相当前から進んだ選挙戦略を練っていて、野党を十分引き離していたのだ)

・「対比法」で選択を誘導する。2つの事柄をコントラストして、一方を選ぶように誘導する。多数ある可能性のうち、2つしか見せない。(ここも安倍さんの優れたところだ。安倍さんはよく「対案を出せ」という。実は私たち、それにのる必要はないのだ。2者択一になり、国民にはこの2つしか選択肢はなく、しかも安倍さんの選択肢以外は、絶対に幸せにならないように見せるようにしているのだ)

・断言法で反論を封じ込める。(誰も安倍さんに反論できないのは、こういう高等技術を用いていたのだ)

・誇大語法で叩き込む。「もっとも」「とてつもない」「最重要の」「唯一の」ということばを使って、本当は1つと限らないのに一つしか見せない。

 

・仮定法で強引に方向付ける。たとえば「6500万人の全国民が同じ理想を持つならば」と勝手に理想値を出しておいて、「~となるだろう」と自分に都合のいい方に誘導したり自分の欲しい帰結を導く。

・婉曲語法で言いくるめる。

・無からパンを取り出す。つまり平和でなくても「平和」と名付けることで納得させる。戦争であるにもかかわらず、戦争と呼ばない。(これはまるで現代のことを言っているようだ。南スーダンは戦争であっても戦争ではない、共謀法は、一般の人であれば対象にならない)

 

さて、安倍さんの次の目標は憲法改正だ。ヒトラーに学ぶのであれば、大衆動員と国威発揚のためのオリンピックが必要になる。安倍さんの演説を歓喜して聞く大衆的なパフォーマンスが国民投票を目指して行われ、そして人々が熱狂するようなことがあれば非常に危険な状況だと思う。すでに遠謀深慮からオリンピックは誘致していて、共謀罪実施の口実とし、憲法改正の年限区切りをした。別に2020年に憲法を改正しなくてもいいのだが、ヒトラーと同じで選択肢を一つしか見せないのだ。私がささやかにできることと言ったら、心の中でオリンピックを拒否しその熱狂に加わらないことだ。

 

 


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