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2016年12月15日 (木)

核発電の事故処理費用

核発電で生じた費用、例えば廃炉費用、事故処理費用、賠償費用、これは当然国民全体から徴収すると、経済産業省の官僚が決定した。この決定に、われわれは従順な国民なので特に違和感を感じなくてもよいわけであるが、河北新報の切り抜きの記事から問題点を指摘した部分を要約してみる。

11月15日付け「核心評論」(井田氏執筆)。廃炉費用は送電網の使用料に上乗せして、核発電とは無縁な新電力にも負担させるとの決定に対して、井田氏は
・核発電優遇政策であり大手電力会社優遇政策である。
・核発電の費用は所有する事業者が負担すべき。
・核発電の電気は嫌だと言って新電力を選んだ消費者までもが核発電関連の費用を払うことになる。
・この決定をしたのは、経産省が任意に選んだメンバーによる審議会だ。民主主義と自由経済の国では考えられない。
・安全への投資を怠り、総括原価方式(=かかった費用はすべて電気料金に上乗せする方式)により大きな利益を上げてきた大手電力会社が当然費用を負担すべき。

12月10日付の報道によると、フクシマの対応費用が想定から21兆円に倍増することに伴い、費用は電気料金上乗せで国民負担とするという決定もあった。当然国民負担すべきだという論点を支持する根拠としては、「今まで、核発電の電気の恩恵を受けてきたのは、お前たち国民だろう」という意見もあるだろうが、「では恩恵を受けていない未来の国民、これから生まれてくる人たち、これからこの国にやってくる人たちは?」という反論も考えられるだろう。

ぼくが興味があるのは官僚主義だ。官僚主義は人間の本性に根差し、古今東西に、そして政治にも企業にもどんな主義主張の国でもどこにだって普遍的に存在する。それは、ある体制の中で優秀な人、忠誠を尽くす人がなる。個人の責任や道義は問われない。軍用機の「墜落」を「不時着」のように表現し、固定化した言葉で世界を見る。感情は表に出さない。などが、歴史の本などを読んでいるとそこからわかる官僚主義だ。官僚主義は当然、個々の出来事に対して個人的な苦悩を感じることはないが、ぼくはフクシマの事故については、個人的な苦悩を感じる官僚や東電社員がいてほしいと思う。もちろんいてくれるのであろうが、ぼくが出会えないのか、報道機関やジャーナリストの方々の伝える努力が及ばないのか、今のところそういう方のことは詳しくわからない。いつも苦悩しているのはわたしたち、国や体制の庇護が及ばない者たちだという気がする。

スベトラーナ・アレクシエービッチ氏の「チェルノブイリの祈り」には、核発電後の苦悩する人たちがたくさん出てくる。そこには官僚への聞き書きも出て来る。ソ連の官僚主義もどこの国の官僚主義も本質的なところは変わらない。だが、ソ連の官僚主義はうまく行かずソ連は崩壊してしまった。我が国の官僚主義は優秀なので、絶対に我が国が崩壊することはないと、また同じような自国礼賛に陥らずに、チェルノブイリの人たちの苦悩を聞いてほしい。官僚だって苦悩しているのだと知れば、少しは私の心も慰められる。

官僚の証言

・他の人は沈黙しているが、私は言おう。あなた方は新聞に書いておられる。共産主義が国民をだまし、真実をかくしたのだと。しかしわれわれにはそうする義務があった。中央委員会や州委員会からの電報で、われわれは課題を与えられたのです。パニックを許すなと。

・われわれには義務があった…。全員がすぐにかくしたかどうか。誰も起きていることの規模を理解していませんでした。政治的利益が最優先されました。しかし、もし、感情抜き、政治抜きで語るなら…。認めなくてはなりません。起ったことをだれも信じていなかったと。学者でさえも信じることができなかったのです。

・もし当時私が、住民を通りに出してはならないといってごらんなさい。「メーデーをつぶしたいのか?」と言われ、政治事件ですよ。

・政治委員会の委員長が事故の翌日だか原発にやってきて、直ちに事故現場に案内してくれと要求したというんです。彼は説明される。黒鉛のかけらがごろごろしていて、放射線量が異常に高く高熱だからそこには行けませんと。「私は自分の目ですべて見ておく必要があるんだ」。彼は部下をどなりつけたんです。「夜、政治局で報告をしなきゃならんのだ」。そしてそんな時、私が言えますか?メーデーのデモ行進を取りやめようとできますか?(再び興奮し始める)新聞が書いている。住民が戸外にいるのに、われわれは地下シェルターに閉じこもっていただと!?私はこの太陽の下、壇上に2時間立っていましたぞ。なにもかぶらず、レインコートも着ずに。

・(沈黙の後で)私が犯罪者だというのなら、私の孫はなぜ…。孫は病気なんです。娘はあの春出産し、おくるみに包んだ赤ん坊を私たちのところに連れてきた。妻がいう「娘と孫を親戚に預けなくちゃ。ここからつれだしてちょうだい」。私は党地区委員会の第一書記でした。そんなことは絶対に出来んといいました。「私が、自分の娘と生まれたばかりの孫をよそに連れていけば、住民は何と思うかね?彼らはここに残っているんだ。」

・お忘れになったのですか、チェルノブイリ以前は原子力は平和な働き手と呼ばれ、われわれは原子力時代に生きていることを誇りに思っていたじゃありませんか。原子力の恐怖は記憶にありません。しかし、党の地区委員会の第一書記がどんなものだというのです。ふつうの大学を卒業したふつうの人間です。

・何か変だと感じるようになりました。われわれは核物理学研究所と契約し、土地の検査を依頼したんです。ところが、電話がかかってきた。「車を都合して、検査に出された土壌を引き取りに来てください」「御冗談を。ミンスクまで400キロもあるんですよ。土壌を引き取れっていうんですか?」思わず受話器を落としそうになりました。「まじめな話です。あなたがたのサンプルは通達に従って、放射性廃棄物埋設地に埋蔵しなくてはなりません」。いいですか?われわれはこの土壌を耕し種をまき、この土壌のうえでこの子どもたちが遊んでいるんです。

・あなたはお忘れなんですよ。当時、原子力発電所は未来だったのです。われわれは未来だったのですよ。…私は昔の人間なんです。犯罪者ではない。


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