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2016年10月20日 (木)

上田紀行氏の論考「ノーベル賞の陰に」

河北新聞10月18日付の上田紀行氏の論考は、2つのことを指摘していて考えさせられたので、紹介したい。

1つはノーベル賞を受賞した大隅氏が指摘した日本の基礎研究離れだ。大隅氏は近年の科学研究と支援の在り方に警鐘を鳴らし、現在政府からは「役に立つ」研究ばかり求められ、将来を見据え長期的に科学をサポートしてほしいと訴えた。上田氏は、この背景に政府が昔のように大学に予算を出さず、競争の名のもとに、研究資金獲得をやらせ、その結果短期的にすぐ効果が上がる研究ばかりが多くなったという背景を指摘している。ノーベル賞受賞で日の目を見る研究というのは、20年、30年前に小さな芽を出しそれをコツコツやってきた人がいるからこそだ。科学や研究の在り方は、我々国民は主権者としてどのようにお金が使われれば納得するのか、全員が考える義務があるのではないだろうか。

もうひとつの指摘は、その研究を支える大学がいま、地元の出身の若者しか入らなくなっていてそれを危惧しているというものだ。これはどういうことかというと、地方の大学などでは、卒業後、地元で教員や公務員になるため、地元志向の強い子が地元の大学に進むということは昔からあった。だが、東京の大学というのは、東京へのあこがれもあって全国から様々な背景を持った若者たちが集まっていた。しかし、いま東京の国立や私立の著名大学では、首都圏出身の若者の占有率が増えていて、首都圏の進学校出身者のための大学になっているということを上田氏は指摘している。

ここにどういう問題点があるか?未知への憧れが真理の探求を支えていたが、その未知へのあこがれが消え、自分の地域から出ないのであれば、社会を支える根源的な活力である個々人のインスピレーションが枯渇するのではないかという。こういう固定された日本の教育ではダイナミズムがないのは明らかだ。生まれ育った地域を離れて学ぼうとする学生を支援すべきだと上田氏は言う。

この東京の大学には首都圏の若者しか行けないという現象の背景にはもちろん経済格差の進行など日本の社会の現状が反映されているだろう。上田氏の指摘は非常に示唆に富んでいると考えた。上田氏は2つの指摘をまとめて「基礎研究をおろそかにしては科学の発展はなく、社会の基礎となる教育をないがしろにしては私たちの未来はない。短期的な利得にとらわれず、真理への憧れを育てる息の長い視野を持つこと」と結んでいる。

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