無料ブログはココログ

« 武器輸出 | トップページ | 『言語の脳科学』(酒井邦嘉)中公新書 »

2016年9月 4日 (日)

今井むつみ『ことばと思考』(岩波新書)

第2外国語を、科学的根拠に基づいて効果的に教える方法はないものだろうか。そういう関心から「言語学」に関する本を読み資料を集めている。今井むつみ氏の「ことばと思考」は面白かった。

この書は、ウォーフ仮説が正しいのかどうかをさぐる。ウォーフというのは著名な言語学者で「話す言葉が違うと認識している世界が違う」という仮説を立てた人だ。言葉というのは、世界に名前を付けていくことだ。名詞のような具体物から動作を表す言葉や抽象概念まで人間は言葉を用いて呼んでいく。そしてこの呼び名をつけるということが、世界を分類して区切りをつけていくことなのだが、この世界の区切り方が民族によって、言語によって異なるのだ。

日本人が「雪」としか呼ばないことを、エスキモーの人は雪の降り方によってもっと細かく名付けていく。「細雪」のように「雪」の複合語ではなく、それぞれ独立した普通語で付けていくのだ。となると、日本人に見えない雪の区別が彼らには見えることになり、違った世界を見ていることになるのだ。ウォーフ仮説は、ここから「異なった文化に属する人どうしは、わかりあえない」という方向へも行ってしまう危険性があるが、今井氏が心理学や言語学において科学的な実証研究を検討し、そして自らも行った結果、言語の違いによって世界の見え方・捉え方が変わってくるというウォーフ仮説はおおむね正しいらしい。

では、この世はわかりあえない人どうしの憎悪発言、憎悪犯罪、戦争、いさかいに満ちてしまうのか。この書で一番感銘を受けたのは、なぜ人は外国語を学ぶべきなのかを述べたところだ。言語は人に視点を与え、ふつうの人は母語の視点に縛られる。しかし、外国語を学ぶということは、その言葉を話す人たちの文化、思考、ものの見方も学ぶということだ。外国語を学べば、自民族のものの見方が絶対であるという偏狭で幼い思考の枠組みから外に出られるし、自民族自体の枠組みも外から客観的に眺められる。

外国語は外交官や商社マンなど一部のエリートがやればいいのであって、一般の人(特に子供たち)に外国語学習を押し付けるのは負担になるという考えもある。しかし、外国語学習は歴史学習と同様に、相対的なものの見方を与えてくれるのであれば、すべての人は何らかの第2外国語を学習するのも悪くはない。それは何も英語学習に限らない。韓国語や中国語だっていいわけだ。

にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村

« 武器輸出 | トップページ | 『言語の脳科学』(酒井邦嘉)中公新書 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/197245/67334799

この記事へのトラックバック一覧です: 今井むつみ『ことばと思考』(岩波新書):

« 武器輸出 | トップページ | 『言語の脳科学』(酒井邦嘉)中公新書 »