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2016年9月 8日 (木)

『言語の脳科学』(酒井邦嘉)中公新書

興味ある言語学の分野で研究を兼ねて読んだ本。忘れないうちにメモを。この本は酒井氏が、チョムスキーが唱えた「普遍文法」を脳科学的に証明するために書いた本だ。チョムスキーが唱える「普遍文法」が果たして存在するのか。今までのいわゆる文系的アプローチではその存在を証明するのは難しい。しかし、測定機械の発達により、人間の脳の中でどのようなことが起こっているのか、直接に観察することが可能になってきて、今「脳科学」は急速に進歩している分野だ。「普遍文法」が人間に存在することを脳科学的に証明しようとして、酒井氏が実際に取り組んだ実験の結果などを紹介するとともに、これまでの言語学の発展を概観的に解説してくれている良書だった。

まず、チョムスキーとは何者か?言語学の大家のアメリカの学者である。酒井氏はボストンに留学しあこがれのチョムスキーに会い、言語学研究に方向を変えたのだという。そして、チョムスキーの理論には論敵や反対派も多いが、それを脳科学的に証明したいのだという。チョムスキーの仕事がどれくらいすごいことか言えば、物理の分野でのコペルニクスと同じで、パラダイム=発想の枠組みを180度転換したのだという。しかし、あまりマスコミに取り上げられない。よって一般人には名前が知られていない。

その理由は、チョムスキーがアメリカの政策に批判的なリベラルな知識人で、専門のほかに政治的な発言を積極的にする人物だということにある。チョムスキーはベトナム戦争に反対した反戦知識人であるし、いまでも、アメリカの沖縄基地に反対するマイケル・ムーアなどとともに数少ないアメリカ人でもある。よって、日本のマスコミもお上の目を恐れてチョムスキーのことはあまり取り上げない。

チョムスキーの言語学の理論では「生成文法」と「普遍文法」がある。生成文法とは、人間は(特に子供)は、文法的=論理的に考える能力がはじめっからそなわっていて、文法を自ら生み出し適用していく、という主張だ。例えば、言葉を習いたての子供には「言い間違い」がある。英語のネイティブの子どもにも、動詞の過去形を作る際に不規則動詞にさえも-edをつけてしまう間違いがあるのだそうだ。それを親が間違うたびに直してやって正しい英語が話せるようになる。(日本人の英語学習者もこの話を聞くと少し安心するだろう)だが、この-edをつけるミスというのは、-edを付ければ過去形になるというルールをごく少数の例から類推して適用しているわけで、実はすごい能力なのだ。

ここから、人間は親や周りの人から言語を習い習得するのではなく、はじめから言語的な能力を持って生まれてくるから言語を習得できる。そういう人間に普遍な言語を獲得するための普遍的なものがあると主張した。それが普遍文法であり、これまでの常識を180度転換したコペルニクス的発見だと言うゆえんなのだ。

酒井氏は脳科学的に、普遍文法が人間の脳のどの場所にあるのかを探そうとする。今は、脳の血流量の変化を記録する装置があるので、かなり詳細に脳で起こっている出来事は客観的にわかるのだ。ぼく自身の興味あることとしては、普遍文法が存在したほうがいいと思うしそれが証明されて、地球が太陽の周りを回っているのが常識になったように、常識になってほしいと思う。なぜなら、普遍文法は、「違い」を強調するのではなく、「同じ」を強調する理論だからだ。韓国語、中国語、日本語と母語に違いはあるが、言語獲得能力は人間に普遍なものであれば、違いを強調するよりは、同じところに目が向くのではないだろうか。普遍文法を唱えたチョムスキーがリベラルだというのもうなづける。

もう一つ、興味があるのは普遍文法と第2言語習得との関係だ。誰でも母語は獲得できる。だが、ほとんど世界で普遍的に第2言語の習得には苦労する。特に大人は。思うに、普遍文法というのは、かなり大まかで大雑把なもので、母語の特徴を獲得することで、つまり1回の発動でその効果は終わってしまい、第2言語を習得するときは効果を発揮しにくいものなのではないか。だとしたら、効果的

な外国語学習の方法というのは科学的にあるのだろうか。そんなことを研究したいと思っている。

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