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2016年8月20日 (土)

紙の本VS電子書籍 続き

"The best American Science and Nature Writing" の"Why the Brain Prefers Paper" から興味深いところの続きを書く。

子どもが初めて文字を読めるようになる、本を読めるようになる、これは実に素晴らしいことだ。だが、ふつうはそれが自然にできるようになるので、本来それがどれくらいたいへんなことなのかということを忘れがちだ。まず文字を認識するということがどれくらい大変なことか。そもそも自分が今見ているものを文字だと認識する。そして例えば二つの文字の違いを識別して今見ている文字はこういう意味でこういう音だと認識する。それには、文字のカーブだったりへこみだったり、隙間だったりを認識しなくてはいけない。人が書いた文字を認識できるスキャナーを開発するのがどれくらい大変なことなのかを考えてほしい。

そしてそもそも人の脳は文字を認識するためにはできていないという。「話す」「運動や体の動きを調整する」「見る」などにあてがわれた脳の組織を結び付け、「即興的に」神経回路を作っていって読めるようになるそうだ。「読む」というと非常に静的なイメージを受けるが、実は体を使った『運動』と同等の行為なのだ。さりげなく文字が読めるようになってしまったなんて、もしかしたら、我々はみなオリンピックの金メダリストと同じくらいヒーローなのかもしれない。

文字を認識し読めるようになるというのはこんなにも大変なことだ。しかも日本の子どもたちは、ひらがな・カタカナに加えて漢字まである。"Why the Brain Prefers Paper"には漢字を学習している日本人の子どもの脳のことが書かれていた。脳を調べてみると、漢字を読むだけで、たとえ手に鉛筆を持っていなくても、書いて、つまり運動して手を動かしているのと同じ反応が脳の「書く」部位にみられるそうだ。

さてあとは、私の所感である。漢字は、その昔何度も書き取りをさせられて覚えた。あれは脳科学的には意味があることだったのだ。漢字を読んだり書いたりすることはすなわち「運動」なのだ。それが脳の回路を形作っていくのだ。そして、もし日本人が「賢い」「頭がいい」としたら、それは漢字のおかげだろう。
もちろんこれは議論を呼ぶ言い方だろう。そこで私が言っている「頭がいい」は、主に脳の神経回路が複雑に発達していることと定義する。ちなみに、学習したり新しい体験をすると、脳の神経は育って伸びて結びついて数も増える。これは何歳になってもだそうだ。実験室のマウス的な実験では、複雑な課題をこなすネズミの方が神経回路=ニューロンが発達している。

子どもたちの負担になるので、漢字を教えるのはやめるとか、少なくするなんてことは昔から話に上ってきている。アメリカをはじめとする連合国軍に対する戦争に負けた後は、著名な文学者が日本語廃止論を唱え、アルファベット文字の使用を提言した。私自身が、こういう提言には反対で、日本人を日本人たらしめていることの一つに「漢字」があると思っているし、文字体系の複雑さも悪いことばかりでないと思う。世界一煩雑な文字や文字体系が、日本人の脳を鍛えてくれているのであるから、これをやめてはもったいない。八つ当たり的に言うと、大学入試で「漢文」を課さない大学が増えているのもとても残念だ。(地元の名門私立大学もそうだ)子どもたちのために負担を軽減するという言い訳で、実際は子供たちから成長する機会を奪っているとしたら残念である。

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