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2015年8月13日 (木)

春香伝

知らないことが、相手に対して不信感や恐怖感を生む。地理的に一番近くに住んでいて、容貌、外見もそっくり、言葉も世界で一番近い、でも、人の気風(きっぷ)は全然違う。韓国・朝鮮の人たちにもっと興味を持ったらどうだろう。朝鮮半島ではおそらくいちばん有名な物語、映画にもテレビドラマにもなって、おそらく韓流ブームの中で目にした人も多いはず。「春香伝」を、岩波文庫で読んでみた。

物語は、両班時代の李氏朝鮮。妓生の娘春香と両班の息子李夢竜との恋物語。身分違いの恋だが、途中で邪魔が入る。日本で言えば、悪代官が登場し、春香に迫る。春香は、固く節操を守り、悪代官を退け、めでたく若様と添い遂げ、二人幸せに暮らし、子孫も繁盛という結末。

こう書いてしまえば、どこがこの話面白いのかと、疑問もわく。一つには、この春香伝は、語り物としてパンソリなどで歌われたので、その口調やリズムが素晴らしい。日本で言えば、「平家物語」の名調子だ。春香が、悪代官に牢にとらえられ、むち打ちの刑を受け、それでも節義を曲げないところでは、一つ笞を打たれるごとに、それを数え歌で、返す。「一つ打たれて一心、人にささげしこの体…」「二つ打たれて二夫にまみえぬ、古き教えを使道知らずや…」翻訳をした許南麒氏の苦労で、原文のリズムが、日本の読者にも伝わってくる。この文庫本には大変有益な解説も付されているが、それによれば、漢文中心の李朝時代に、ハングルという国語を表す文字が既にあったとはいえ、貴族階級の両班からは馬鹿にされ見向きもされなかった時代、この春香伝は、韓国・朝鮮文学の一つの頂点・達成点をなすのだという。

女性が男性に節操をささげるというのは、いかにも儒教道徳めいて古臭いが、実は主人公の春香は、身分制度やなんやら不自由な封建時代にあって、体制から強制された意志をはねのけ、個人の自由や意思を表明している。16歳の少女がである。それが、長く「春香伝」が、朝鮮の民衆に愛されてきた理由である。また、悪代官は当然最後は懲らしめられ、それが民衆のカタルスシとなるのだが、それは、李氏朝鮮の儒教道徳でしばりつけられた体制の中で、横暴を働く官吏らに対して、農民や民衆側からの反抗であると言う。そのような、流れが、李氏朝鮮末期の東学党の農民反乱や、日本からの独立運動にもつながっていくのであろう。巻末の解説は「春香伝」の文学史的意義や歴史的意義も教えてくれて、たいへん有益である。

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